イネイブラーだった過去を振り返る

 ニートのひきこもりと、一時期お友達だった。彼女は精神病を患ってて、学校に行けない!と言って高校を中退、その後は、ずっと家族と暮らしていた。病気のほうは、治るどころか悪化して、私と初めて会った時よりも、さらにひどくなっていった。

 そんな彼女を見て、漠然と、可哀想だなあと思っていた。精神病になりたくてなるわけないし、手助けできるならしてあげたい、と思っていた。だから、彼女が欲しい物をほのめかせば、誕生日にプレゼントとして贈ったり、家まで泊まりに来いと言われれば、交通費を惜しまずに出掛けて行った。私自身は、彼女と一緒にいて楽しかった記憶は、「一瞬たりとも」なかったのだけれど、病気で友達もいないなんてかわいそう、私を必要としてくれる人なのだから、言うことを聞いてあげなきゃ!と思っていた。自分のほうが、社会的にも経済的にも安定していることが、どこか負い目になっていた。そこに付け込まれた。

 彼女は、自分で買えば済むような物でさえ「あなたの持ってるこれ、いいなあ~」と物欲しげに言ってきて、私が贈るのをずっと待っていた。「いま、喫茶店でお茶するお金もないの…」と言って、私との付き合いを断りながら、目の前でテイクアウトのコーヒーを買った。金額は、そっちのほうが高いくらいだったのに。不満はあったけれど、病気の子と「付き合ってあげている」私は、世間の冷たい人々よりも、親切なんだと思い込んだ。内心で呪詛の声を上げながら友達ごっこをするほうが、よっぽど失礼なことなのに、そこまでは考えていなかったのだ。

 相手の無力さを助長するような人を、イネイブラーと呼ぶらしいが、自分がそれだったのかな、と思う。どんなにわかりきったことでも、彼女が言うことは感心して聞いてやり(そうじゃないと不機嫌になるから)、どんな些細な嫌味も言わず(そうじゃないと逆ギレするか、被害者ぶって「ごめんなさい」を連発するから)、そんな行動は、彼女を駄目にする一方だった。彼女は、全て社会が悪いと言う。日本が悪い、学校が悪い、先生が悪い。あの子の口から、自分の性格と真摯に向き合う言葉なんて聞いたことがない。

 働くようになる直前に、私から一方的に絶交した。脅すようなメールや手紙が届いたけど、もう私にはどうすることもできない。これ以上、付き合ってなんかいけないし、安易な気持ちで、人の言うことを聞いてやるもんじゃないと学んだ。それから、他人に責任を押し付けている以上、何も変えられないんだということも。