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舞踏って前衛芸術の話

 いわゆる前衛芸術の舞踏。土方巽(ひじかた・たつみ)という、秋田出身のおじさんが創始者だ。『病める舞姫』という非常に難解な小説も書いている。舞踏は決して綺麗ではないけれど、他人を魅了することを放棄して、ただひたすら自分のために踊るあたりが「芸術」って感じがする。

 例えばバレエは、パッと見が単純に華やかで、きらやかな衣装に、完成された演出を自慢にするけれど、コンテンポラリー・舞踏は、はっきり言って大衆を無視する。「素人にはわからん」世界だ。パリのファッションショーが先鋭的過ぎてついていけないのと同じで。私もわからん。なんか落ち着くけど綺麗だとは思わん。興味があるのは、彼の言っていることのほうだ。「床に飼い慣らされた足への反抗」とか「肉体の暗闇をむしって食べる」とか、こんな表現って、できるものじゃない。

 土方は一昔前の東北に生まれて、農作業に出る両親に、日中は籠に入れたまま放置して育てられた。そういう時代だったのだ。育ち盛りの男の子の身体は、夕方になって籠から出されても思うように動かない。それを、ゆっくりと解きほぐして、やっと動けるようになる。そういう体験が、舞踏の原風景のひとつなのだそうだ。ヨーロッパの舞台芸術とは、もう出発点が違う。

 「アンダーグラウンド」っていうけど、要は日本の貧しい、裏社会から生まれた文化なのだという気がする。昔の百姓の子どもたちは夕方になると、一斉に舞踏を踊る羽目になっていたのか。『病める舞姫』はまた読むと思う。でも、舞踏自体はしばらく見ない。私はどうしても「普通の」人間だから、わかりやすいバレエを観に行きたい。