大人になっていいこと

 負の感情とどう付き合っていくかは、まともに考えておいて損はない。醜い気持ちに蓋をしようとして、清らかぶっていた頃が、振り返れば一番苦しかった。理想と現実の乖離がひどすぎて、自己嫌悪が止まらなくなる。人間なら、嫉妬もするし、人の不幸に「ざまあみろ」と笑いたくなったりするものなんだ、と受け入れてからは少しは楽になった。

 とは言え、そういう感情が人生の主要部分を占めると、復讐心に捕らわれて、せっかくの幸運を見逃したり、必要以上に顔が険しくなって老けたりするだけで、あまりいいことはないらしい。復讐心でいっぱいの時は、自分を傷つけた人間を一人一人、社会から抹殺して回りたかったけど、その力のない自分が非力に思えてイライラしただけで、結局何もできなかったし。それくらいなら「優雅な生活が最高の復讐である」と方向転換して、持ち駒をフルに使って、得られるものをすべて得ておくべきだったんだ。

 いくつかの顔を持っていれば、負の感情にも上手に耐えられるようになっていくんじゃないか、と思う。家庭と仕事、プライベート、他にも何か。そうやって居場所が分散されれば、保険がかけられる。子どもの頃は、それができないから辛かった。大人になることのいいところは、そうやって「自分」っていうものを、ひとつの場所ではなく複数に分散させて、生きていけるとこかもしれない。